学習上の躓きを持っている生徒に関する情報共有

学校法人・教育業界コンサルタントの水溪です。

いつもお読み頂き有難うございます。

前回の記事、中途退学を防ぐ為に全日制高校の先生が出来る事で触れました、

1.学習上の躓きを持っている生徒に関する情報共有

に焦点を当てます。

ここでは、「学習上の躓き」の背景にある要因を大きく2つに分けて考えてみましょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

①発達の遅れや偏りによる躓き

②学級崩壊や不登校経験などによる、小中学校相当の基礎学力未修得による躓き

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まず、①発達の遅れや偏りによる躓きについて。

過去の文部科学省の調査でも、学習面又は行動面で困難を示す発達障害のある生徒が、小中学校に6.5%程在籍する事が示唆されていました。

既に外部の相談機関に繋がっている場合や診断を受けている場合は、保護者・支援者との間でチームサポートの体制を整える事で、効果的な療育が可能です。

ただ、受診する程では無いものの、ある種の苦手を持っている生徒さんも多くいらっしゃいます。

例えば、障害特性によって、「聴覚の過敏さの為に騒がしい教室で落ち着いて学習が出来ない」「昼夜逆転による生活リズムの乱れで定時に登校出来ない」といった事が起こりえます。

また、「集中力が持続しにくい」「作文や計算といった特定の分野が物凄く苦手」と言った悩みや、「長々とした説明を聞いて理解するのが不得意」と言った声、「コミニュケーションが苦手で休み時間が苦痛」といった話もしばしばお聞きします。

現場の先生方が日々試行錯誤されているのは、こういった生徒さんをどう理解するか、といった事ではないでしょうか。

学校によっては、別室登校の為の環境を整えたり、外部のフリースクールや通所支援施設への登校を出席とカウントすると言った対応をされています。

その他にも、見通しが立ちやすくする為の工夫や、簡潔な伝え方の実践、休み時間に過ごすための場を設けるといった形の配慮で、スムーズな学校生活が送れるというケースもあります。

その為には、日々生徒さんと向かっている先生の誰かが小さなサインに気づき、教職員の間でシェアされなければなりません。

次に、「②学級崩壊や不登校経験などによる、小中学校相当の基礎学力未修得による躓き」についても見てみましょう。

何らかの理由で読み書きや計算の基礎学習をする機会を失ってしまうと、勉強自体に苦手意識を持ってしまいますし、高校の学習についていくのも非常にしんどくなります。

これらの生徒には、適切な教材を設定し、自学自習による学び直しを促す事が有効です。

一人ひとりによって適した形があると思いますが、学習範囲と期間を決めた上で採点も自分で行って貰い、教員は進捗の確認と、それでも分からない際の解説といった部分的なサポートで良いかと思います。

何よりも大切なのは、

「わからない事は恥ずかしい事では無いし、今から出来るようになれば良い。」

というメッセージを送り続ける事でしょうか。

小さな基礎の積み重ねは、きっと自信に繋がるはずです。

①と②のいずれも、担任、学年主任、教頭先生を始めとしたキーマンが、「誰が」「何で困っているか」「どのようなサポートが必要か」といった情報をきちんと共有し、躓きの理由に応じた適切なサポートを行っていく事が、中退を抑制する上で不可欠と言えます。

水溪 悠樹(ミズタニ ユウキ)

発達障害のある新入生を迎える大学がすべき事

学校法人・教育業界コンサルタントの水溪です。

いつもお読み頂き有難うございます。

全国で、入学式や入社式のニュースが聞かれる4月になりました。

急な環境変化への適応や、人間関係上の苦手を持つ発達障害のある当事者さんにとっては、特にストレスが多い季節だと思います。

実際、こうした大学生へのサポートを専門にされている支援者さんにお会いすると、

●大学に合格したのに、入学後の宿泊型のオリエンテーションで躓き、不登校状態になってしまった。

●単位履修の仕方が十分に理解出来ず、誰にも相談する事が出来なかった。

という話をしばしば伺います。

ある種の感覚上の過敏さを持つ方にとって、宿泊型のイベントは苦痛や刺激に満ちており、非常に敷居が高いものです。

また、キャンパスでは親しくなった者同士で「履修科目どうする?」と相談し合う風景が至る所で見られますが、仲間関係を築くのが不得意な人にとっては、そういった輪に入るのは困難です。

(それ以外にも、アナウンスの聞き漏らし、掲示の見落としがあったり、同学年の生徒をモニタリング出来ていない為に、「周りの人がやっているから、自分もやらなきゃ。」という考えに至らない事も考えられます。)

こうした生徒に対して、大学教職員がすべき事は何でしょうか。

最も必要なものは、

●障害の疑いのある相談者の話をよく聴くこと。

●生徒、保護者、場合によっては高校進路担当者と連携を取り、入学前から人的なサポートの体制を整えること。

にあります。

(後者に関しては、保護者や高校の教員が支援のニーズを自覚していないと難しいですが・・・。)

前述した入学後の躓きに立ち返ると、

●障害特性の為に宿泊型のオリエンテーションが難しいと申告して来た生徒には、別途個別のガイダンス日を設ける。

●履修上の悩みは教務課、心の悩みは学生相談室、進路に関する悩みはキャリアセンター、というように相談の為の資源を明示する。

と言ったことで、スムーズに大学生活へと繋ぐ事が出来ます。

ただ、現場の教職員の方の中には、「その生徒だけ特別扱いは出来ない。」「甘やかしでは無いか。」「そんな事では、卒業後に社会で通用しない。」という誤解をお持ちの方もいらっしゃると思います。

ある意味では、それは正しい事なのかもしれません。

ですが、

●「障害特性の為に現時点で困難な事があるのであれば、飛び越えられる別のハードルを設ける。」

というのは、必要な教育的配慮だと私は思います。

今は出来なくても、これからの大学生活の中で徐々に獲得していく事は沢山有るのですから。

先ほどのオリエンテーションの例で言えば、別日程を設け、その約束をきちんと守るよう約束する事は、甘やかしではありません。

障害特性に対する正しい理解と、教職員の方々の対応・伝え方次第で、解決出来る事はまだまだ沢山あります。

是非、様々な背景を持つ生徒が充実した大学生活を送れるような学校づくりを一緒に進めていきましょう。

水溪 悠樹(ミズタニ ユウキ)

高等学校が創る学習支援センターという資源

学校法人・教育業界コンサルタントの水溪です。

いつもお読み頂き有難うございます。

高校生の頃、「学校の授業が難しくて置いてけぼりになってしまった」という経験をお持ちの方はいらっしゃらないでしょうか。

私はあります。

全国高等学校PTA連合会が2009年に行った調査では、高校生の4人に1人が「授業が難しくてついていけない」と感じている、という結果が示されています。

このような現状を踏まえ、校内に『学習支援センター』を設け、積極的なサポートをされている高等学校さまがおられます。

東京都内の例で言いますと、かえつ有明中・高等学校さん、八王子実践高等学校さん、等々力中学校・高等学校さん、武蔵野中学高等学校さん、女子聖学院中学校高等学校さんの取り組みが知られています。

これらの取り組みを概観してみますと、学習支援センターの原点は、

●生徒が自学自習を行う事が出来、講習の受講や教員への質問が出来る場所と時間を設ける。

と言う点にあります。

一見シンプルですが、学習・質問が出来る「場所」「時間」を明示する事で、学習習慣の獲得と構造化がなされる為、十分な効果が期待出来ます。

前述した学習センターの機能を充実させた例として、ハイレベル講座、英検・漢検など各種講習を付加したり、進学指導を行うものもあります。

また、個別ブースを設け集中しやすい環境づくりをしているケースや、夜21:00まで利用可能な学校もあります。

しかし、学習支援センターの進歩は、これだけにとどまりません。

さらに先進的な学校では、

●学習支援センターのサポート体制のシステム化

を進められています。

具体的には、

●「単元別のテスト⇒分析⇒補習」のサイクルを回す事による学力向上施策

●ビデオ教材、eラーニングシステムの導入

を行い、更に生徒の学力向上に関与する形を取っておられます。

学校が持つ役割と責任を、授業外にも広げて認識されている好例と言えるかと思います。

ただ、必ずしも支援内容とコンテンツを増やせば良い、という訳でもありません。

学校が目指す方向や、生徒のニーズ、現在の校内資源を鑑みながら、自校に合ったオリジナルの学習支援センターを作る事が理想と言えるでしょう。

水溪 悠樹(ミズタニ ユウキ)

発達をサポートするという視点

学校法人・教育業界コンサルタントの水溪です。

いつもお読み頂き有難うございます。

土曜日の日中はお休みを頂いて、特定非営利活動法人ノンラベル主催の『アスペルガー支援者養成講座』に行って来ました。

(「発達障害」というキーワードは、学生時代に不登校や中途退学について学ぶ中で出会い、今も個人的なテーマの一つになっています。)

今回は、ゲスト講師として、

●『30歳からの社会人デビュー―アスペルガーの私、青春のトンネルを抜けてつかんだ未来』(花風社)

の著者である藤家寛子さんをお招きし、後半にはニキ・リンコさん、花風社の浅見淳子さんとの対談まで伺うことが出来ました。

正確な内容は、花風社さんが出版されている書籍をお読み頂くのが一番かと思いますが、自分なりに咀嚼してのみ込んだポイントは、

①社会で生きていくには、(障害の有無に関わらず)強くならなければならない。

②支援者は、「世の中は障害の事を分かってくれない・・・。」というような誤った社会観を植えつけてはいけない。

③社会で生きていくのは、実は結構楽しいし、それによって楽になることもある。

という三点です。

シンプルですが、非常に重みのある言葉です。

この①~③をよくよく吟味すると、詰まるところ、

●人生の初期段階で、どんな支援者(保護者・学校の先生・ワーカー・ドクターなど)と出会うか。

がかなり大事な要素になってくるように感じます。

すなわち、その支援者のもとで、自己の課題を適切に理解し、体力やソーシャルスキルを身につけ、未来に対する前向きな期待を養っていく事がとても重要だということです。

これらは、我々が担う教育の仕事の本質を示しています。

知識や技術を習得させるのも学校やスクール業の大切な役割ですが、「生徒の発達をサポートする」という役割を再認識する事で、これまで以上にサービスに幅と深みが生まれてくるはずです。

実際にこれらの課題に取り組まれている学校さまについては、また別の機会にご紹介していきたいと思います。

水溪 悠樹(ミズタニ ユウキ)